片頭痛に新しい治療薬が登場しました。
片頭痛の方でお薬を内服していても、頭痛に悩まされている方は多いと思います。最近になり片頭痛予防の全く新しい薬剤が使用できるようになりました。今回は片頭痛について新しい治療薬も含めましてご紹介いたします。
片頭痛とは
頭痛には、くも膜下出血や脳腫瘍など原因となる病気がある場合と特に原因となる病気がない場合があります。原因となる病気がない頭痛を一次性頭痛と呼び、その中の一つに片頭痛があります。ほかの一次性頭痛には緊張型頭痛や群発頭痛などがあります。
日本における調査では慢性的な頭痛を持っている方が約4,000万人いて、そのうちの840万人の方が片頭痛(疑い例も含む)と報告されています。片頭痛は20~40代の方に多く認め、女性の方の有病率は男性の約3.6倍と報告されています。
このように片頭痛は特殊な頭痛ではなく、また若い方に多く発症するため仕事や家事、育児などにも影響を与えてしまう可能性があります。
片頭痛の症状について
頭痛はズキンズキンと脈を打つような頭痛であり、頭の片側の痛みが多いですが左右ともに痛くなる場合もあります。頭痛以外に吐いてしまう、気持ち悪くなる、光をまぶしく感じる、周囲の音がうるさく感じるなどの症状を伴うことがあります。片頭痛のかたの3割から8割くらいの方は頭痛が起こる数時間から数日前にかけて疲労感や首のこり、集中力の低下、あくびなど何かしらの予兆が出ることがあります。
また頭痛の直前や頭痛が始まってから、視覚障害や顔の感覚障害などの神経症状を認める方がいます。これを前兆といい、代表的なのは視野にギザギザした光が現れて、その後に頭痛が始まるケースです。頭痛の程度も中等度から重度の場合が多く、歩行などの動作で悪化するため寝込んでしまうことも多いです。
片頭痛の治療について
片頭痛の治療には頭痛が出ているときに症状を和らげる急性期治療と頭痛自体を予防する予防療法に分けられます。
①急性期治療
急性期の治療はお薬での治療が中心になります。軽症~中等度の頭痛の場合にはアセトアミノフェン(カロナールなど)や非ステロイド系抗炎症薬(ロキソニンなど)を使用します。中等度から重度の頭痛やアセトアミノフェン、非ステロイド系抗炎症薬が効かない場合にはトリプタンというお薬を使用します。大事なことはこれらのお薬は頭痛の初期に内服することです、頭痛がピークに達してから飲んでは痛みがなかなか良くならないことが多いです。吐気を伴う場合には吐気止めも合わせて使用します。
➁予防療法
予防療法を行うことで、頭痛発生頻度や程度、頭痛が出ている時間の軽減や頭痛により生じていた日常生活への影響の軽減が期待できます。またトリプタンなど急性期治療に使用する薬剤の乱用は、薬剤の使用過多による頭痛を誘発することがあり、頭痛が頻回で急性期治薬の過剰な使用をせざるを得ない方も予防療法を行った方が良いです。ガイドラインでは片頭痛が月に2回以上あるいは6日以上ある場合には予防療法が推奨されています。予防薬にも色々な種類があり、有効性や副作用などから5つのグループに分けられています。グループ1(有効)の薬にはバルプロ酸やプロプラノロールといった薬剤があります。予防療法を行う場合にはこれらの薬剤を副作用がなければ3~6か月程度内服し、頭痛が軽減できれば内服薬の量を少しずつ減らしていきます。
しかしこれらの予防薬は実はてんかんや高血圧、うつなどの治療薬でもあり片頭痛の病態機序にそって開発された薬ではないことや、有効性に対しての十分なエビデンスがない点、効果が出るまでに数か月かかるなど問題点もあります。そこで登場したのが全く新しい片頭痛の予防薬です。
新しい片頭痛予防薬(抗CGRPモノクローナル抗体)
片頭痛が起こるメカニズムの1つとして、CGRPという神経伝達物質が脳の周りの血管に作用して頭痛が生じます。新しい片頭痛予防薬は頭痛を引き起こすCGRPにくっついてCGRPの働きを阻止することにより片頭痛が起きないようにしてくれます。従来の予防薬と違い、片頭痛のメカニズムに合わせた作用機序であり高い予防効果が期待できる薬剤です。
現在、日本では2種類の抗CGRPモノクローナル抗体製剤が使用可能です。アジョビ®という薬剤とエムガルディ®という薬剤で、ともに皮下注射薬です。アジョビ®は4週間ごとに1本(225mg)皮下注射する方法と1回3本(675mg)を12週間ごとに皮下注射する方法があります。エムガルディ®は初回に2本注射し、その後は1本を1か月ごとに皮下注射します。いずれの薬剤も1か月あたりの片頭痛日数の短縮、片頭痛にて日常生活に支障のあった日数の短縮などが臨床試験で認められ、高い予防効果が期待できます。
問題点としては非常に高価なお薬であることです。3割負担の場合では注射1本あたり約12000円~13000円程度かかります。使用にあたってはまずは開始して3か月後を目安に片頭痛がどうなったか評価し、効果が得られていない場合には中止とします。効果が出ている場合には使用を継続します。使用継続後も定期的に治療効果を評価し、頭痛の消失や軽減により日常生活に支障が出なくなったら使用の終了を検討します。
新しい予防薬の登場により片頭痛の治療は大きく変わりました。非常に値段が高く、経済的負担が大きいため気軽に使用はできないと思います。しかし高い予防効果が期待でき、日常生活への影響も軽減されることにより、よりよい日常生活の実現や仕事や家事などの生産性向上にもつながると思われます。
当院ではアジョビ®、エムガルディ®いずれの薬剤も処方可能です。従来の片頭痛の治療薬を使用していても片頭痛が抑えられない方で、使用を考えてみたいという場合にはご相談ください。
参考資料
CGRP 関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)
慢性頭痛の診療ガイドライン 2013