心房細動について
心房細動とは
心臓の中は4つの部屋に分けられています。上の部屋を心房、下の部屋を心室とよび、それぞれ右と左に分けられます(心房は右房と左房、心室は右室と左室)。心臓が動くときは通常は右房にある洞結節という場所から電気信号が出てそれが心房、心室に伝わり心臓が規則正しく動いています。心房細動では心房の色々なところから電気信号が出てしまうため心房が細かく不規則にふるえるように動いてしまい、通常のような規則正しい心臓の動きができなくなっています。
心房細動の患者さんは増えています
心房細動の患者さんは毎年増え続けています。理由としては高齢になるほど心房細動をもっている方は増えるため、現在の高齢化社会が大きな理由です。また色々な検査が発達し、昔は見過ごされてきた心房細動がよく見つかるようになったのも理由の1つと考えられます。
日本で行われた調査では2005年の時点で心房細動の患者さんは約72万人と推定されています。今後も高齢化に伴い増加が予測され、2050年には約100万人になると考えられています。
心房細動の診断について
心電図検査で心房細動の変化が認められれば診断は簡単です。しかし発作性心房細動の場合には普通の状態になったり心房細動になったりしており、心電図検査をした場合にたまたま正常な状態だと隠れ心房細動を見つけることができません。診察のたびに毎回心電図検査を行なえば心房細動が出ている状態を記録できる確率が高まり診断率も上がりますが、患者さんに毎回心電図検査を行なうのは色々な負担を考えると、もともと不整脈などの持病があるなど特殊な状況以外では行なうべきではありません。ではどうしたら心房細動を見つけることができるでしょうか?
一番簡単で患者さんの負担が少ないのは脈をとることです。手首にある動脈の部分を触って拍動が規則正しくない場合には心房細動が疑われるので心電図検査で確認します。心房細動はドキドキするなどの症状を感じないことも多く(無症候性)、患者さん自身では気づくことができない場合も多いです。このため脈をとるというのはシンプルですが心房細動を見つけるのに非常に役に立ちます。
24時間の心電図を連続して記録できるホルタ―心電図という検査もありますが、患者さんの負担や検査代がやや高めであり、本当に検査が必要かどうかを考えて行う必要があります。最近では小型で持ち運びのできる携帯型心電計があり(機械を胸に押し当てるだけで心電図が記録されます)、ドキドキの症状が出たときなどにすぐ自宅で記録することもできるようになりました。またアップルウォッチにて不整脈を見つけることができるようになってきており、今後日本でも普及することがあるかもしれません。
脳梗塞と心房細動
心房細動と脳梗塞、一見関係ないようにみえますが実は大きな関係があります。心房細動は心臓の上のお部屋(心房)が小刻みに震えるため血液の流れが滞り、血液の塊(血栓)ができることがあります。血栓が心臓から脳の血管へ流れていき詰まってしまうと脳梗塞になってしまいます。このため血栓を予防する薬を内服(抗凝固療法)する場合があります。ただし全員の方が必ず脳梗塞になるわけではありません、一生ならない人の方が多いです。しかしながら脳梗塞は起きてしまうと重大な後遺症が残る場合がありますので、脳梗塞のリスクが高い方には予防薬を飲んでいただくことをおすすめします。具体的には下の表を参考にします。
たとえば78歳の方で持病に高血圧と糖尿病があれば、年齢で1点、高血圧で1点、糖尿病で1点、合計3点となります。ガイドラインでは合計点が1点以上あれば予防薬の内服が推奨されています。0点の場合には個々の患者さんの年齢や持病などを考慮し個別にお薬を飲むか飲まないか決めるようになっています。
治療薬にはワーファリンというお薬とDOAC(ドアック)と呼ばれるお薬があります。ワーファリンは昔からあるお薬です。値段が安いのが患者さんにとっては良い面です。しかしある患者さんは1錠で大丈夫、ある患者さんでは3錠飲まないと効かないなど、お薬の効き具合が患者さんごとで異なります。このため定期的に血液検査でお薬の効き具合を確認する必要があります。DOACとは最近のお薬で現在は4種類あります。DOACはあらかじめ内服する量は決められていて、ワーファリンのように血液検査で効き具合を確認する必要はありません。ただし値段が高めなのと腎臓が悪い場合や体重が少ない場合などでは飲む量を減らす必要があります。
特殊な例として僧帽弁狭窄症という病気を持っている場合と、心臓の弁を機械弁に入れ替えた手術をされた方は上の表に関係なくワーファリンの内服が推奨されます。
レートコントロールとリズムコントロール
心房細動の治療には脳梗塞を予防する抗凝固療法以外に、心拍数を調節するレートコントロールと心房細動自体を正常へ戻すリズムコントロールがあります。レートコントロールとリズムコントロールを比較するとどちらを行なっても死亡率や心不全による入院率などに差がないことが分かっており、通常はレートコントロールを優先します。1分間に110回以下の心拍数を目安しますが、個々の患者さんで適切な心拍数は異なりますので患者さんごとに治療目標の心拍数は決めます。治療薬はβ遮断薬というお薬が中心となります。
リズムコントロールとは電気ショックやお薬(注射薬、飲み薬)で心房細動自体を正常に戻す治療です。リズムコントロールは専門性が高いため、通常は循環器専門医の先生や専門の医療機関に紹介します。
主役になりつつあるカテーテルアブレーション治療
近年、カテーテルアブレーション治療が心房細動に対して広く行われてきています。血管を通して心臓まで到達したカテーテルを用いて、心臓の筋肉の一部を焼いたりして心房細動を止め、通常の状態に戻す治療です。心房細動による症状が強くあり、お薬では心房細動が改善しない発作性心房細動には積極的に行われます。今後さらに色々な心房細動のケースに対して幅広くカテーテルアブレーション治療が行われていくことが予測されます。当然専門医の先生の高度な技術を要しますでの、治療可能な専門医療機関への紹介が必要になります。
心房細動以外の持病の治療も大事です
心房細動に伴う心不全や脳梗塞発症を防ぐために、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、慢性腎臓病がある場合にはこれらの治療もしっかりと行なうことも重要です。
心房細動は脳梗塞のリスクになり得ます。治療もカテーテルアブレーション治療を含めて多岐に渡ります。健康診断で心房細動を指摘された方や、最近ドキドキする、脈が飛ぶ感じがするなど症状のある方は早めに医療機関へ相談しましょう。
参考文献 2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン