喫煙と新型コロナウイルス
新型コロナウイルス感染が拡大中です。新型コロナウイルス感染症は軽症例が多いですが、一部の方は重症化し致死的となる場合もあります。高齢者の方は免疫機能の低下などからより重篤化しやすいです。高血圧、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、がんなどの持病があると重症化しやすいこと、持病も1つよりも2つ以上持っているとさらに重症化しやすいことも報告されています。[1,2]
〇喫煙と呼吸器感染症
喫煙は呼吸器感染症(気管支炎や肺炎など)を起こす原因の1つです。気管支粘膜には線毛構造があり鼻から入ってきた細菌やウイルスを奥の肺へ入れないように外へ送り出す働きをしています。喫煙により線毛が傷害されると細菌やウイルスが肺の方へ入りやすくなり肺炎につながります。また喫煙により免疫機能も低下するため体全体が細菌やウイルスに弱くなってしまうことも原因の1つです。インフルエンザは喫煙者のほうが非喫煙者と比べて1.44~2.42倍、肺炎は1.88倍、結核も2.33倍発症リスクが高いと報告されています。[3]
〇喫煙と新型コロナウイルス
新型コロナウイルスはACE2受容体というタンパク質にくっついて人の細胞に侵入します。ACE2受容体は気管支上皮や肺の細胞上皮にも存在します。このため下気道や肺に新型コロナウイルスが侵入し肺炎などを生じます。[4]
喫煙者ではACE2受容体が非喫煙者に比べて、下気道上皮におけるACE2受容体が多く発現していることが報告されています。このことは喫煙者においてより新型コロナウイルスが下気道や肺に侵入しやすい原因の1つである可能性があります。[5]
実際に中国の武漢での78名の新型コロナウイルス肺炎患者さんを調べた報告では喫煙が新型コロナウイルス肺炎における悪化の大きな原因の1つであることが分かりました。[6]
〇COPDと新型コロナウイルス
慢性閉塞性肺疾患とは主にタバコの有害物質により気管支や肺に炎症や組織の破壊が生じ、慢性的な咳、痰、息切れなど生じる病気です。
COPDの方が新型コロナウイルス感染症にかかると重症化しやすいことが分かっています。COPDの方はもともと正常な肺が少なくなっており、新型コロナウイルス肺炎を起こすとただでさえ少ない正常な肺がさらに少なくなり、より呼吸状態が悪くなりやすいです。
COPD患者さんでも新型コロナウイルスの侵入玄関であるACE2受容体が下気道や肺に多く発現していることも報告されています。[5]
〇禁煙と新型コロナウイルス
新型コロナウイルスの侵入玄関であるACE2受容体は喫煙していない人と過去に喫煙していたが今は吸っていない人では発現に差がないことも報告されています。[5] どの期間禁煙すれば非喫煙者の方と同程度になるかは不明ですが、今からの禁煙でも新型コロナウイルスの重症化リスクを減らす可能性も十分あると思います。コロナに負けないようぜひ禁煙を考えてみてください。
引用文献
[1] Eur Respir J. 2020 Mar 26. pii: 2000547. doi: 10.1183/13993003.00547-2020.
[2] J Infect. 2020 Mar 30. pii: S0163-4453(20)30146-8. doi: 10.1016/j.jinf.2020.03.019.
[3] 禁煙学 改訂第3版
[4] Nature. 2020 Mar;579(7798):270-273
[5] Eur Respir J. 2020 Apr 8. pii: 2000688. doi: 10.1183/13993003.00688-2020.
[6] Chin Med J (Engl). 2020 Feb 28. doi: 10.1097/CM9.0000000000000775.