咳が長引いて困っています、何が原因ですか?
はじめに
例年にないほど暑かった夏も終わり、すっかり朝晩は寒くなってきました。そのせいか咳でお困りの方が数多く受診されるようになってきています。
咳の原因には色々あり、診断も一筋縄ではいかないこともあります。今回は咳の患者さんを前にしたときにどういう風に考えて診察をしているかをご紹介いたします。
咳の診断について
まず初めに咳の持続期間を確認することが大事です。咳が出始めて3週間以内の咳ではウイルスや細菌の気道感染によるもの(いわゆる風邪、気管支炎、肺炎)が多くを占めます。
発熱や鼻水、のどの痛み、だるさなどの症状があればさらに気道感染の可能性が高くなります。この場合には通常の咳止めをお出ししたり、肺炎になっていれば抗生物質も処方します。
咳が1か月から2か月くらい続いている場合を遷延性咳嗽と呼びます。遷延性咳嗽で一番多いのは、風邪や気管支炎にかかったあとの長引く咳(感染後咳嗽)です。風邪や気管支炎になった後で、原因となったウイルスや細菌は体から退治されても、気管支表面における咳の反射が活性化することにより、ちょっとした刺激などで咳が出て長引く状態です。最初に風邪症状があり、その後咳だけが長く続くことで診断できます。この場合も基本的には咳止めを使用し症状を和らげつつ、自然に治るのを待つことになります。咳止め以外に、うがいやのど飴を使用しのどの加湿を行うことも重要です。
風邪をひいたあとに、夜間ゼーゼーして苦しくなる、あるいは風邪をひいてなくても夜間や朝方にゼーゼーして苦しくなり咳がでる場合には気管支ぜんそくが疑われます。気管支ぜんそくには呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)測定が診断に役立ちます。10秒間息を吐いていただくだけの検査であり、当院でも気管支ぜんそくが疑われる場合には積極的に検査を受けていただくようにしています。
咳が2か月以上続く状態を慢性咳嗽と言います。肺がんや結核は見逃してはいけませんので長引く咳の場合にはまず肺のレントゲンを撮影し異常がないかをまず確認します。
聴診で喘鳴(ゼーゼー音)を認めれば気管支ぜんそくやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、心不全などが考えられるので、それぞれの検査を行ないます。
2ヶ月以上続く咳でよくみられる原因に咳ぜんそくがあります。咳ぜんそくはゼーゼーとした呼吸音は認めない気管支ぜんそくの亜型(咳だけでる喘息)です。本物の気管支ぜんそくと同様に夜間や朝方、また季節の変り目などに咳が多くみられるのが特徴です。咳ぜんそくも気管支ぜんそくと同じく吸入ステロイドというお薬がよく効きます。ゼーゼーヒューヒューなど音がなく、咳が夜間や明け方に多いなど気管支ぜんそくと同じような場合には咳ぜんそくを疑い吸入ステロイドの使用をおすすめします。
また聴診において、背中の下側でチリチリとした音が聞こえれば間質性肺炎の可能性があります。間質性肺炎とは肺が固くなってくる特殊な肺の疾患です。間質性肺炎が疑われる場合には胸部CTが必須になりますので、CTが撮影できる病院をご紹介します。
逆流性食道炎(胃酸が胃から食道へ逆流して胸やけが生じる疾患)も咳の原因になります。胃酸がのどまで逆流することにより、胃酸の刺激で咳が出ます。治療はPPIという胃酸を抑えるお薬を使用します。
他にも薬剤の副作用による咳嗽(ACE阻害薬という血圧の薬が有名です)やご高齢の方では飲み込む力が低下して誤嚥による咳も原因としてあります。
おわりに
ひとくちに咳といっても原因は様々です。自然に治る咳もあれば、治療をしないと治らない咳もあります。咳が長引く場合には必ず医療機関を受診し診察を受けるようにして下さい。