最新の糖尿病治療薬の選び方が発表されました。
2型糖尿病の薬物療法アルゴリズム
糖尿病のお薬には大きく分けて現在10種類のお薬が存在します。日本ではどのお薬を最初に使用するかは、医師が患者さん個々の病態とそれぞれの薬剤の特徴を考慮して決定するようになっています。しかし自分のような糖尿病非専門医にとってはどの薬剤を最初に使用するか判断に迷う場合も多く、また処方内容が画一的になってしまう恐れもありました。昨年に日本糖尿病学会から薬剤使用選択の決定に役立つ「2型糖尿病の薬物療法アルゴリズム」が発表されました。糖尿病治療薬を選ぶにあたりポイントとなることが明記されており、これにより非専門医でもより適切な薬剤を選択しやすくなりました。今回はこの内容を簡単にご紹介いたします。なお糖尿病治療薬の種類につきましては過去の記事もご参照ください。
Step1 病態に応じた薬剤選択
インスリンという血糖を下げるホルモンが膵臓から出ます。糖尿病の原因には膵臓から十分なインスリンが出ない「インスリン分泌不全」とインスリンが体に効きづらい状態である「インスリン抵抗性」があります。インスリン分泌不全とインスリン抵抗性のどちらかが大きく関係しているかはそれぞれの患者さんで異なります。例えば患者Aさんはインスリン分泌不全が70%、インスリン抵抗性が30%の割合で悪さをしており、患者Bさんはインスリン分泌不全が40%、インスリン抵抗性が60%みたいな感じです。
糖尿病の原因がインスリン分泌不全がメインか抵抗性がメインか分かれば、それに適したお薬を使用できます。専門的に分泌不全や抵抗性を調べるにはC-peptide indexやHOMA-IRなどの検査があるのですが、当院のような一般の内科クリニックでは手間がかかるためまず調べません。そこで体重を指標にしてインスリン分泌不全タイプかインスリン抵抗性タイプかをざっくり推測することが示されました。肥満なほどインスリン抵抗性が強いためです。BMIという体格指数を参考にし肥満の患者さんにはインスリン抵抗性が強いと考えてインスリン分泌を促進しないビグアナイド薬、SGLT2阻害薬、チアゾリジン薬やインスリン分泌を促進しますが体重減少が期待できるGLP1受容体作動薬の使用を考えます。非肥満の患者さんはインスリン分泌不全がメインと考えられ、インスリン分泌を促進するDPP4阻害薬が良い適応です。SU薬はインスリンを強力に分泌しますが低血糖のリスクもあり使用には注意が必要です。その他には食後の血糖を抑えるグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬も選択肢に入ります。まずは体重を指標として目の前の患者さんに一番合いそうな薬剤を頭に浮かべます。
Step2 安全性への配慮
糖尿病治療薬の最重要事項として安全に血糖を下げることがあります。腎臓や肝臓の機能低下がある場合や心不全などを発症している場合には使用が厳禁な薬剤、あるいは使用にあたり注意が必要な薬剤があります。また高齢者の方は糖尿病治療薬で低血糖を生じるリスクもあります。Step1で考えた薬剤が安全に使用できるか、患者さんの状態や年齢を考えて検討します。安全性に懸念がある場合にはStep1に戻り使用できそうな薬剤を再度考えます。
Step3 治療薬によって追加効果が期待できる併存疾患があるか
糖尿病治療薬の中でSGLT2阻害薬やGLP1受容体作動薬には血糖を下げる以外のプレミアムな効果があります。SGLT2阻害薬には血糖を下げる以外に慢性腎臓病、心不全、心血管疾患を良くする効果があります。GLP1受容体作動薬にも慢性腎臓病や心血管疾患への良い効果が報告されています。糖尿病に加えて慢性腎臓病や心不全、心血管疾患をもっている患者さんにはSGLT2阻害薬やGLP1受容体作動薬の使用を積極的に考えます。
Step4 考慮すべき患者さん背景
どんなに素晴らしいお薬でも患者さんにきちんと飲んでいただけなければ意味がありません。糖尿病治療薬の服用回数は薬剤により1日1回内服や2回内服、3回内服、週1回の内服や注射でいいものなどさまざまです。また必ず食事の直前に飲まないといけないものもあります。患者さんのライフスタイルや認知機能などを考慮しなるべく負担にならないものを選択します。また薬の値段も重要です。ビグアナイド薬は比較的安価ですが、一部の薬剤は高価なものもあります。こちらの説明が不十分で薬局さんに行って値段にびっくりしたという声も時々いただきます(申し訳ありません)。
以上の過程で実際に処方するお薬を決定します。あくまで使用するお薬を決定するうえで必要な考え方が示されただけで、実際にはそれぞれの医師の考えで自由に処方はできます。ただし自分のような糖尿病非専門医にとっては学会より考え方が示されたことにより、より患者さんに適した治療ができるのではないかと思います。当院でもより最適な糖尿病治療を提供できるようこの考え方を活用してまいります。
※この記事は日本糖尿病学会のコンセンサスステートメント「2型糖尿病の薬物療法アルゴリズム」を参考、一部引用、転載し作成しました。